情報の経済学の続き シグナリング、コミットメント、スクリーニングと逆選択

昨日、てかもう一昨日になるけど取り扱った「戦略的思考の技術」から、情報の経済学についてのトピックを紹介する。

今日のアジェンダはタイトルの通り、シグナリング、コミットメント、スクリーニング、逆選択についてだ。

これらは全て、ある横串に通すことができる。
それは、「情報を持つ者から情報を持たない者へ、情報が行きわたるようになる」ということだ。

情報を持つ者のことを「情報優位者」と呼び、情報を持たない者のことを「情報劣位者」と呼ぶ。

例えば、赤頭巾を例に出そう。
赤頭巾がおばあさんの家に行ったとき、赤頭巾にはベッドで寝ている人が本当におばあさんかどうかがわからない。
この時、ベッドで寝ている人(本当におばあさんだとする)、おばあさんは自分が本当におばあさんだと赤頭巾に信じてほしい。


このときに出てくるのが「シグナリング」だ。戦略的に相手にシグナル(合図)を送り、それによって自分の立場をより好ましいものにしようとする行動である。

シグナリングが有効となるためには、2つの原則がある。
1つは、シグナルが相手にはっきりと認識可能であること、
2つ目は、シグナルを発生させるのにコストがかかるということ、である。

おばあさんが赤頭巾に信じてもらうには、この2つを満たすようなシグナルを送らないといけない。
例えば、「おばあさんがいつも赤頭巾に作っているのと同じ味の料理を作る」といったことが当てはまる。
これなら、赤頭巾にも認識可能であるし、料理を作るのにはコストがかかる。
というか、「いつも作っているのと同じ味」を出すのにコストがかかる(もしもおばあさんでなかったら、事前にその味を調べて、再現できるように特訓しないといけない)


コミットメント」というのは、自分の選択肢をあえて狭めることで相手に情報を伝え、それによって自分の立場をより好ましいものにしようとする行動だ。
例えば、ベッドで寝たきりのおばあさんは、「病気にかかる」という行為によって、「自分は寝たきりで自分の食べ物すら用意できない」という情報を赤頭巾に送り、それによって看病してもらうことができる。
コミットメントが有効となるためには、それが信頼できる情報でないといけない。
もしも「病気で動けない」はずのおばあさんが、そのことを自分の足で歩いて伝えに来ていたら、その情報には信憑性がないと感じられるだろう。


スクリーニング」とは、情報劣位者が情報優位者から情報を引き出そうとすることを言う。
赤頭巾がベッドにふせっている人から本当におばあさんかどうかの情報を引き出すことである。
このためには、相手の属性やタイプによってシグナルを出すインセンティブの強さがはっきりと異なる必要があるのだ。

ベッドにふせっている人はおばあさん本人または別人である。
シグナリングの事例で扱った「おばあさんがいつも赤頭巾に作っているのと同じ味の料理を作る」では、
おばあさん本人と別人とでは、作るコストが異なる。おばあさんの方が楽だ。

なので、おばあさん本人であることを確認するためには適切なスクリーニングであるといえよう。
(ただし、おばあさんが本当に病気でふせっている場合はコストがかなり高いので、もっと適切な例があると思う)


一方で、「逆選択」というのは、意図せずにスクリーニングを行ってしまうことだ。
これはよく保険を例にして説明される。

保険は、それぞれの加入者が直面するリスクを集めて共有化することで意味を持つ。
例えば車両保険を挙げると、個々の加入者が1年以内に事故に会う確率が0.1%だとして、事故に遭った場合100万円の損失が出るとすると、
100人が1000円ずつお金を出し合って保険を設立すると、
0.1%の確立で100万円の損失が出る可能性を気にして100万円がんばって貯金するよりも、
100万円の0.1%の1000円を最初に出してもしもの損害が完全に補てんされる方が望ましい。

こういう保険があったとして、実際には個々の人の事故に遭う確率は一定ではなく、1%の人もいれば0.001%の人もいる。
1%の確率で事故にあう人からすると、事故の損失の期待値は100万円の1%である1万円なのに1000円支払えば全額補てんされるのだから、お得に感じ、積極的にこの保険に入るだろう。
一方で、0.001%の人からすると、事故の損失の期待値は100万円の0.001%である100円なのに1000円も支払わないと全額補てんされないのだから、損だと感じ、この保険には加入しないだろう。

このように、情報優位者の性質によって出てしまう差を意図に反してあぶりだしてしまうのである。

以上、今回は情報の経済学からトピックを取り扱ってみた。
役に立つので、実践されるとよいだろう。

同時手番ゲームと逐次手番ゲーム

この本。読んだのは随分昔なのだけれど、良い本なのでちょっと紹介しようと思う。

サブタイトルにはゲーム理論と入っているけど、Amazonのレビューにもある通り、ミクロ経済学の応用分野である「情報の経済学」がメインだと思う。

目次としては、

第1章 戦略
第2章 先読みと均衡
第3章 リスクと不確実性
第4章 インセンティブ
第5章 コミットメント
第6章 ロック・イン
第7章 シグナリング
第8章 スクリーニングと逆選択
第9章 モラル・ハザード
第10章 値引き競争
第11章 オークション

となっていて、なかなかページを開きがたく思われるかもしれないが、
難しい数学の類は使われておらず、身近な例によって情報の経済学のトピックを解説している。

日常にも活かせる分野だと思うので、ぜひ読んでみることをおすすめする。

・・と、これだけだと丸投げなので、ざっくりとした説明を試みようと思う。

まず、「戦略」というのは自分の取れる選択肢のことだ。
そして、自分のとる戦略だけでなく、他人のとる戦略がお互いの利害を決めるような環境のことを「戦略的環境」と呼ぶ。
ゲーム理論ではこうした戦略的環境を分析するためのツールを提供している。
なお、戦略をもって行動する主体のことをプレイヤーと呼ぶ。

ゲームは大きく分けると2つに分かれる。
プレイヤーが同時に行動するか、それとも何らかの順番にしたがって行動するか、だ。
この同時に行動するゲームのことを「静学ゲーム」や「同時手番ゲーム」などと呼ぶ。







同時手番ゲームでは、図のようなテーブルを描いてゲームを考える。
このゲームは、有名な「囚人のジレンマ」を使っている。

「問題[編集]
共同で犯罪を行ったと思われる囚人A、Bを自白させるため、警官は2人に以下の条件を伝えた。
もし、お前らが2人とも黙秘したら、2人とも懲役1年だ。
だが、お前らのうち1人だけが自白したらそいつはその場で釈放してやろう(つまり懲役0年)。この場合自白しなかった方は懲役10年だ。
ただし、お前らが2人とも自白したら、2人とも懲役3年だ。
この時、2人の囚人は共犯者と協調して黙秘すべきか、それとも共犯者を裏切って自白すべきか、というのが問題である。 なお彼ら2人は別室に隔離される等しており、2人の間で強制力のある合意を形成できない 状況におかれているとする。 (例えば自分だけが釈放されるように相方を脅迫したり、二人共黙秘するような契約書をかわしたりすることはできないと言うこと)。
囚人A、Bの行動と懲役の関係を表(利得表と呼ばれる)にまとめると、以下のようになる。 表内の(-○、-△)は囚人A、Bの懲役がそれぞれ○年、△年であることを意味する。 たとえば表の右上の欄はA、Bがそれぞれ協調・裏切りを選択した場合、A、Bの懲役がそれぞれ5年、0年であることを意味する。」
(Wikipedeaより抜粋。懲役何年か、のところは先に書いた図を修正するのが面倒だったので文章の方を変えた)

こんな感じで問題が出たときに、同時手番ゲームでは「Bが自白するとしたらAは自白したほうがいい」「Bが黙秘するとしたらAは自白した方がいい」という風に、
相手の行動を「先読み」して考える。Aから見たBの行動とBから見たAの行動を両方見て、結局こいつらこの行動になるよね、というのを「ナッシュ均衡」という。
ナッシュ均衡は、定義としては「どのプレイヤーも、行動を変えることで自分の利得が上がらない」ような状況のことをいう。

で、プレイヤーが順番にしたがって行動するゲームのことを「動学ゲーム」とか「逐次手番ゲーム」と呼ぶ。
さっきの囚人のジレンマを、Aが行動してからBが行動するという逐次手番ゲームに変える。かっこの読み方はさっきと同じで、(A,B)の順番

逐次手番ゲームでは、図のような樹形図を描いて、「後ろ向き帰納法」というもので考える。
手番が後ろの人の立場になって考えるというものだ。この場合はBからいく。
上のBは「Aがすでに自白を選択している状況では、Bは自白を選択した方がいい」、下のBは「Aがすでに黙秘を選択している状況では、Bは自白を選択した方がいい」。
Bの戦略について考えたら、Aの戦略について考える。
「Aが自白を選択したらBは自白し、Aが黙秘を選択したらBは自白するということがわかっている状況では、Aは自白を選択した方がいい」となる。
戦略の比較は、自分がどっちの方が得するか(つまり利得)を見て考える。

このようにして同時手番ゲームと逐次手番ゲームを考えることができる。

・・と、これが第2章までのあらすじ。
この先はゲームに確率を導入したり、プレイヤーの見えない性質「タイプ」を導入したりして考えていくことになる。
面倒だけど、考えると楽しいし、それこそゲーム感覚で読み進んでいけると思う。

情報の経済学のトピックは日常にも活かせるし、管理会計で扱ったように仕事にも生かせると思う。
選択肢があるところでは必ず判断の役に立つのだ。