忙しさによって変わるシステム開発案件の価格設定

今日も同じく、「基礎から学ぶ SEの会計知識」から。この本はすごく勉強になる。
まあ、この本の出版時期から一部会計規則が変わったらしく、そこには注意する必要があるけれど。

価格決定は、ソフトウェアの受託開発のような個別受注生産の場合は、大量に出回る規格品のような市場がないため、コストなどを基に価格を決めることになるらしい。ここでは、管理会計に基づいたプライシングについての話だ。これは、人手が余っている状態と人手不足の状態で変わってくる。

p.231
「例題1 システム・インテグレータのA社は、顧客のB社から新規システム開発の見積もり以来を受けた。コストの見積もりをしたところ、以下のようになった。このうち管理費配布岳は全社共通の管理費で、一定のルールで個別プロジェクトに配布するものだ。
過去に実施した規模のプロジェクトの実績に照らすと、コストに利益を上乗せした35000千円がA社の標準的な販売価格となった。この額をB社に提示したところ、「30000千円が予算の上限で、それ以上では絶対に発注できない」と返答してきた。」

●手余りの場合
A社は当面、他のプロジェクトの予定はなく、人員に余裕がある。このとき、B社の案件を受けるべきだろうか。

これも例によって結論から述べると、受けるべき、という結論になる。

B社が望んでいる30000千円では赤字になってしまうのだが、コストの内訳をみるべきだ。
ハードウェア一式と外注費は受注したらかかる変動費だが、正社員人件費と管理費配布額は受注がなくても発生する固定費だ。
この場合、受注するしないで正社員のクビを切ることができず、管理費配布額も部門を廃止にしない限り配布されるため、
固定費はどのような意思決定をしても取り返すことができない埋没費用となる。

埋没費用は考えなくてもよいため、このプロジェクトの費用は実質的には、変動費用であるハードウェア一式10000+外注費10000=20000千円で、
顧客から30000千円の収入があるため、値下げに応じても、この注文を受ければ、
30000-20000=10000千円の利益を得られる。よって、この注文は受けるべきである。

◆限界利益と貢献利益
売上高から変動費を差し引いた利益を限界利益と呼び、これは同時に、固定費の回収に貢献する利益という意味で貢献利益とも呼ぶ。
*ただし、貢献利益における回収対象の固定費の範囲によっては、限界利益と異なることもある。
限界利益がプラスである限り、追加的に利益を得られるため、案件を受けるべきとなる。

●手不足の場合
p.233
「例題2 例題1と同じく、システム・インテグレータのA社はB社から30000千円という金額指定でシステム開発の依頼を受け取っている。ただしA社には、他の顧客から同様の案件の引き合いが来ており、そちらは35000千円で受注できることが確実である。現在、A社はほかのプロジェクトも抱えており人員に余裕が少なく、受注できる案件は1社に限られる。これらの条件以外はすべて例題1と同じものとして、A社はB社からの注文を受けるべきかどうかを考えてほしい。」

同様の案件ということで、他社の方も費用は全く同じと考えていいらしい。
で、この場合は計算せずとも、単純に高い料金を払ってくれる方をえらべばよい。

◆機会費用~売れっ子ほど儲かる~
今回の問題ではB社からの受注を取るか、他社からの受注を取るかという選択である。
B社の受注を取ると、30000-20000=10000千円の利益を得られる。これは例題1と同じ。
他社の受注を取ると、35000-20000=15000千円の利益を得られる。
よって、他社の案件を受注するべきとなる。

ある選択肢を取ったときには、別の選択肢を取った時に得られたであろう利益が得られなくなる。この逸失利益のことを機会費用という。
手余り状態の場合、限界利益がプラスでありさえすればその案件を受けた方が良い(機会費用は0)が、
手不足状態の場合、他の案件で見込める受注額(=機会費用)が新たな案件の価格の下限になる。

引き合いがたくさんあって忙しい会社ほど、価格交渉力があり、強気なプライシングができる。それによってますます儲かる。
反対に引き合いの少ない会社ほど、価格交渉力がなく、値下げ要求に応じるようなプライシングを余儀なくされ、ますますジリ貧になる。

忙しいときには機会費用が高いのである。したがって、忙しいときほどミスも痛くなる。

配置転換と増益、そして正社員と固定費用

昨日と同じく、「基礎から学ぶ SEの会計知識」からの話題。

p214,管理会計の第2部 短期的意思決定から
「例題2 A社では、ここのところ開発担当者の人手不足が続いており、ソフトの需要があるにも関わらず、開発案件の受注は控えている状況である。サーバーの運用業務をアウトソーシングすれば、これまで運用を担当していた正社員を開発業務に振り向けられる。こうすることで、資産では1時間当たり換算で25千円の売り上げ増加を期待できる。この条件のとき、A社はサーバーの運用をアウトソーシングすべきだろうか。」
で、アウトソーシングした場合としなかった場合の費用は昨日の例題1と同じ。
つまり、

自社運用:100千円/時間
アウトソーシング:70+50=120千円/時間
で、これに配置転換を計算に加えればいい。

これに対する解答はアウトソーシングすべき!である。

その理由は、アウトソーシングする場合は25千円/時間の売上が入るので費用から引くことができ、120-25=95千円/時間となり、
自社運用の100千円/時間よりも安くなるためだ。

ここからわかるのは、固定費用はなるべく有効活用するべきということである。

昨日の話だと、正社員もすぐにはクビを切れないので人件費が固定費となる、という話だった。
「人のクビを切らない、古き良き日本企業」を守るためには、転勤やら部門の転換やらの配置転換が必要であったというのも、なかなかうなずける話だ。
(配置転換が売上に繋がるかどうか、という判断はどうやってするんだろう? このあたり僕にはよくわからない)
反面で、必要な能力を持った人材を調達するのに、企業の外部の市場からではなく、内部の正社員を従わせてきたので、職掌が明確になっていないのだろう。
SIerにおいて人の稼働率が重要になる、というのもここら辺りに起因するところだろう。
みんな正社員だから、経営の側から見ると固定費用で、死ぬほど活用しないといけない。SEが長時間労働というのも何となくわかる。
ただ、これは僕のような未熟な労働者にとってはある意味で歓迎する事態だ。技能というものが経験を得ることで高まるのなら、稼働率を上げることが僕にとっても得になる。
そして、十分に技能が高まったなら、そうしたところから離れて、成果に応じた給与を得られるように転職する、ということもありだろう。
ちょっと話がそれてプリンシパル・エージェンシー理論の方に寄ってしまった。

まあ、日本企業の雇用システムのあたりは、こういう本を読んでみるのも良いかも。

アウトソーシングと自社運用について

このあいだ紹介した「基礎から学ぶ SEの会計知識」から、面白そうな話題があったので紹介してみる。
管理会計の第2部 短期的意思決定の固定費と変動費についてだ。

p209「例題1 ソフトメーカーのA社は、各種サーバーを自社で運用している。
運用チームによれば、サーバー運用コストは1時間あたり100千円。その内訳は以下のようになっている。

 A社はハウジング・サービスを利用して、アウトソーシング会社のデータセンターにサーバーを預けて運用を全面委託することを検討している。アウトソーシング会社は、1時間当たり70千円で請け負うという。今の運用コストより、30千円/時間も安い計算だ。
データセンターでのハウジング・サービスを売り用すれば、セキュリティ管理や災害対策など様々なメリットがあるが、ここでは経済的効果の観点だけで考えるものとする。A社はアウトソーシングすべきだろうか」

という話なんだけど、結論からいうとここではアウトソーシングすべきではない、という結論になった。

そのために重要になるのが、固定費と変動費という概念だ。
固定費*というのは資本設備を一定としたときに、生産量の変化に左右されない費用のことで、
変動費というのは資本設備を一定としたときに、生産量とともに変化する費用のことだ。

アウトソーシングをすることでサーバー電力費や派遣社員はカットできるのだが、正社員はクビにしない限り費用がかかるし、サーバーを預けるだけなので減価償却も発生する。また事務費も一般的にその部署があるためにかかっているもので、アウトソースをしてもかかってくるだろう。

といったところから、
固定費:正社員人件費30千円+減価償却費10千円+その他事務費10千円=50千円/時間となり、
変動費:派遣社員人件費45千円+サーバー電力費5千円=50千円となるのである。

アウトソーシングをしても固定費はかかるということを考慮すると、
自社運用を続けた場合の費用は依然として100千円/時間、
アウトソーシングをした場合の費用は70千円+固定費用50千円=120千円/時間となるので、
自社運用をした場合の方が安くすむのである。

そこから、教訓としては固定費が多いほどアウトソーシングしても効果が薄い、ということだそうだ。
配置転換などができる場合にはまた話が変わってくるので、それは後日。

*:固定費と埋没費用は別の概念。埋没費用はどのような意思決定をしても取り戻せないお金のこと。
例えば、資本設備として使用しているコンピュータを買った費用はそれを売っても全額戻ってくるわけではない。

ITに関わる会計処理


今日はこいつを参考に、ICTシステムに関する会計処理についてまとめてみようと思う。

開発目的による分類:①自社利用、②受託開発、③市場販売

それぞれ、上の図のように処理をする。

ユーザー企業ではシステムをいったん貸借対照表に無形固定資産として計上(初期設定に関する費用などは無形固定資産に含めるが、データ変換やトレーニングに関する費用は発生した事業年度において費用として処理する)したあと、減価償却費として償却していく。(償却期間は5年。製造設備の一部として使用している場合は、製造原価に計上する)

ITベンダーでの、受託開発においては、開発中は仕掛品として貸借対照表に計上し、販売時に売上原価として損益計算書に計上する。売上原価に計上するタイミングは、完成・検収時にまとめて売上と売上原価を計上する「工事完成基準」を用いる。開発途中の段階で、ユーザー企業から金銭の支払いを受けたとしても、売上ではなく「前受金」として負債計上しなければならない。

ITベンダーでの、市場販売するシステム(パッケージソフト)においては、時期によって3つに分かれる。1、最初の製品マスターが完成するまで 2、最終版製品マスターが完成するまで 3、製品製造・販売時。1においては、貸借対照表には計上せず、研究開発費として損益計算書に計上する。2においては、無形固定資産として貸借対照表に計上し、後に償却期間は3年で、売上原価として減価償却をする。3においては、製造中は仕掛品、完成したら完成品として貸借対照表に計上し、販売時に売上原価として計上していく。

*工事完成基準で売上を分割計上する方法: 要件定義書や基本設計書などの成果物を契約書においてあらかじめ取り決めておき、それを納品するびに計上するやり方がある。 「ユーザーが使用し得る一定のプログラムや設計書等の関連文書を成果物とみなせる」のだそう。

追記:ソフトウェア(無形固定資産)の償却期間は①複写して販売するための原本および研究開発用のものは3年、②その他のものは5年。ハードウェアの償却期間はサーバーが5年、サーバー意外のコンピュータは4年。